今日も流れ転がっている

来春に医療施設を開院予定のお客さんに 、
“待合で流す音楽を選曲していただきたい”
とのオファーを
“もちろん仕事として”
と有難い御言葉とともにいただきました。これは自分が今までやってきたこと、続けてきたことの一つの成果ではないかと。光栄至極なのであります。

二十年来のお付き合いになるお客さんからの要望。感謝の気持ちを込めまくって選曲したい。大まかなイメージも頂戴しました。

ふむ、なるほど。インストのみですか。おおよそ三時間分ですね。院長の音楽の好みも熟知しているつもりだ。よし、何とかなりそうだ。もちろん、音楽好きだけが唸るようなものではダメだ。普段、音楽に耳を傾けないような方々の心が和むような、気持ちが緩むような、そんな選曲を心がけなくてはな。

待合室で流す音楽にこだわりを持つ医療施設。コレは圧倒的個性の一つになると思うのです。きっと在り来たりの医院ではなくなることでしょう。頑張っちゃうぞ。いや、ほどほどに力を抜いて、さらりとやってのけよう。これもまた、私の仕事である。ググッと静かに燃えているのである。

《余談》
今朝、ふと宮本輝が自身のライフワーク的作品である『流転の海』の主人公 松坂熊吾(作者の父がモデル)が息子に言って聞かせる “人生にとって大事なこと” を思い出したのです。
以下がその六つ。

「約束は守らにゃあいけん」
「丁寧な言葉を正しく喋れにゃあいけん」
「弱いものをいじめちゃあいけん」
「自尊心より大切なものを持って生きにゃあいけん」
「女とケンカをしちゃあいけん」
「なにがどうなろうと、たいしたことはあらせん」

何だかとても響きましたね。借り物の言葉になりますが、私も息子に伝えたいなと思ったのでした。

股旅。

生活とは

今朝、父の髪を切りに実家へ行ってきた。毎度思うのだが、老いた父の身だしなみを整えてあげられるってのはイイもんだなと。


私が好きな小説『漂流』(吉村昭著)で、過酷な漂流生活の果てにやっと生還出来るとなったとき、皆で髪を整え合う場面があったが、髪を切り身だしなみを整えるという行為は生活の中での最低限の「礼儀」だなと思うのである。


父が「オレはもう髪なんてどうなってもイイ。そんなの誰も見ないし、気にしないし、適当でイイんだ!」となってしまったら、それはもう人と人とが向き合い生き合う生活を放棄したことになるのではないかと。


そうならないように私は父の髪を切るのである。放っておいたら伸び放題にしかねないのでね。父にはまだまだ「生活」を棄てないで欲しいからだ。


なんてことを思いつつカットし終えると、これもまたいつものことなのだが父の写真を撮る。


「良い遺影を撮っておかないとね!」


と言ったら、父はクシャクシャの顔で笑った。大丈夫、まだジョークは通じる。ユーモアを無くすこともまた「生活」を放棄することになると思うのである。だから、私は父に会うたび、しょうもない冗談で少しでも笑えるようにしている。


「不謹慎だ!」


ともしかしたら賢い貴方が怒り出すかも知れないようなことも言っている。でもイイじゃん。

父が笑っているなら、イイじゃんイイじゃん。

『遺影』は “YEAH!” だ。


KIRINJI のニューアルバムが良い。自分の周囲を取り囲む「生活」を自分が意図するようなものに変えてくれるような魔力のあるアルバムだと思う。


今更ながら『さらば雑司ヶ谷』(樋口毅宏 著)を読んでいる。著者は私と同いどし。池袋周辺のあの頃のあの空気感を共有しているなと感じる箇所が多数。それを嫉妬と嫌悪が入混じった感情を抱きつつ読み進めている。これは途中で投げ出してはいけないなと自分に言い聞かせて読んでいる。面白くないことはない。

では股旅。

今までもこれからも

このアルバム。オリジナル版の発売が1991年の3月ですって。ということは、私の二年目の浪人生活が確定して愕然としてた頃ってことか。


その割には、このアルバムのイメージがキラキラしているのは何でだろう。それは私がまだ十九歳だったからなのかな。二浪突入に落ち込みつつも、まぁ何とかなるっしょ!と思ってたような気もする。


しかし、あのとき。二浪するのが当たり前だと思っていた自分を思い返すと怖い。両親も当然二浪させてくれると思っていたし。全てが甘過ぎて、過去に戻ってあの頃の自分にドロップキックを喰らわせたいくらいだ。


そんないろいろ様々な思いを喚起させる、このスカパラ超初期のライブアルバムなわけだが、先日の「レコードの日」にめでたくも初アナログ化をはたしたのである。
これと最初期の1989年に発売された「黄色いアナログ」が再発され、メジャー1stアルバムの「スカパラ登場」が初アナログ化されたのだった。


これは自慢なのだが「黄色いアナログ」を当時高校三年だった私は池袋WAVEで買っている。

手にとった瞬間、ものすごく興奮したのを覚えている。

ライブにも何度も足を運んだ。「世の中にこんなにカッコイイ大人がいるんだ!オレもいつかこうなるんだぜ!」と鼻息荒くしていた。

まぁともかく、それはもうとんでもなく、私の中で東京スカパラダイスオーケストラの登場はセンセーショナルだったのだ。


あれから三十年。いまだに聴き続けているのだから面白い。

これから三十年。ずっと聴き続けるレコードは一体何かな。


三十年後となると私も七十八歳になっているわけで、そもそもまだ生きているかな。

息子は三十六歳になっているな。もう結婚しているかな。

孫が出来たりしてるかな。

妻さんはまだまだ元気ハツラツで、今と同じく私にハッパかけまくってて欲しいな。

そんな光景のバックでは、きっとステキな音楽が流れていることだろう。

『人生はクローズアップで見ればシリアスだが、ロングショットで見ればコメディだ』って言葉を思い出した。

結構、いつも私のそばで寄り添っている言葉なのよね。


股旅。

欲しいのは一皮剥けた感

所沢市山口にある秘密基地『CVC.MALL』。そこの二階にある多目的スペース SPACE FORREST で毎週水曜日だけ開店する『Bar CLOSED』という店がある。

その第二水曜日、僕はレコード選曲しにお邪魔させてもらっている。一昨日の晩もやらせてもらったのだが、その日がまた殊更イイ空気感に満ちていた。それが何故なのか説明できないのだが、すでに何回もやっているのだが、一昨日の晩にいきなり感じたあの “一皮剥けた感” 。それがなんだか嬉しかったんだったんだった。アレはなんだったんだろうか。

この『CVC.MALL』。最寄駅から徒歩で十五分ぐらいかかるし、「え?何故ここに?」って思わせる場所にあったりで、勝手に共感&親近感を抱かせてもらっている。“たまたま” とか “偶然” 行ける立地ではない。そこに行こうという『意思』が働かない限り辿り着けない場所なのである。

そんな場所で第二水曜日、すなわち月の半ばで、しかも週の半ばという集客を考えるとナンセンスな日に開催するっつーナイスな試みに大いに賛同して、僕はこの企画に参加している。マイナス要素全てに「そこがイイんじゃない!」と言えるようになれたら素敵じゃない!そう思い込んでいるのである。

一昨日の晩は、そんな思いが結実したような気がした。うちの店にも、そんな風が吹いてくることを願っている。

一昨日の選曲テーマは『Night Park』だった。毎回『Bar CLOSED』主宰のテルくんからお題が出され、それに即したレコードを持っていくというのが、また面白い。
テーマに即したレコードだけ。
これがミソ。CD やら PC やらまで持ち込むとなると選択肢が広がり過ぎて、オッサンには処理できなくなるのである。制限があった方が燃えるし萌えるし、そこにドラマが生まれるのだ。こんな気持ちわかるでしょう?

で、今回随分と選曲を褒められた。で、他の褒められたときを思い出してみて、その共通項を探ってみたら、そのどれもがそれほどプランを練ってなくて、ある程度の流れをぼんやり決めて、そこからは「その場の空気感と自分のノリで」とのぞんだときだったとわかった。

いろいろとあまり考えない方がイイ……

そういうことなのだろうな。多分きっと。

で、備忘録的に一昨日のセットリスト。自分的には、ちゃんとテーマである『Night Park』に即しているよなと思い込んでいる。ちょっとこれで MIX CD 作ろうかしらんとも思った。

01. Speedtalk / Underworld02. Luv(sic)pt2 / Shingo 203. Human / Daughter04. The Modern love / The Strokes05. Down The Valley / Not Wonk06. Stubborn Love / The Lumineers07. Stephanie Says / The Velvet Underground08. King Of A One Horse Town / Dan Auerbach09. A Dream Goes On Forever / Debbie Sanders10. Fast Car / Tracey Chapman11. I Can’t Go For That (No Can Do) / Daryl Hall John Oates12. Leave A Tender Moment Alone / Billy Joel13. Luanne / Moacir Santos14. Chateau / Angus & Julia Stone15. Toast 2 Us / Tuxedo16. Peg / Steely Dan17. Every Breath You Take / The Police18. Pounding / Doves19. Starman / David Bowie20. ナイトクルージング / Fishmans

ずっと残るもの

私が子供の頃『山口さんちのツトム君』という歌が流行った。

この歌は何故か何故だか私の心の奥に入り込んだようで、初めて聴いた幼稚園生だったときから四十数年ずっと、ふとした拍子に脳内再生され、それに合わせて口ずさんでしまう不思議な魅力に満ちた歌なのである。

幼馴染みの山口ツトム君がなんだか元気がない。遊ぼうと誘っても「あとで」とつれない返事。大事にしていた三輪車も庭でずぶ濡れ。翌日には元気になったかな「おはよう!」と呼んでも返事がない……どうしたのかな……

そんな歌なのだが、私は歌の後半を覚えてなくて、確か何で山口さんちのツトム君が元気なくなっちゃったのかが歌われていたはずだよな〜なんでだっけ?そうだ!ネットがあるじゃない!

そう思い立ち検索したらチンチンプイプイ。すっかり疑問は解けた。

ツトム君のママが田舎に帰ってしまってたから元気がなかったわけだ。そして歌の最後にはママが戻ってきて、ツトム君は元気を取り戻し歌い手の女の子に摘みたてのイチゴをお土産に持ってくるという甘酸っぱい結末で終わるのだ。

この歌を口ずさむと子供の頃にも甘酸っぱい思いになったのだが、オッサンになった今感じる甘酸っぱさはまた別のものになったのを感じる。

ママ、何で田舎にツトム君を置いて帰ってたのかな……甘酸っぱいぜ!

となってしまっているのだからオッサンになるっつーのは哀しい。

作詞作曲は、みなみらんぼうさん。同じく、らんぼうさんが作詞作曲した東京電力のCMで使われた『僕は三丁目の電柱です』という歌も大好きだった。そういえば、先日この曲を歌っていた山谷初男さんも亡くなってしまったな。何だかいろいろと切ない。時は流れるね。

よし。みなみらんぼうさんのアルバム、探してみよう。

画像は息子が着ていたパーカー。(と長友くんの受賞作品)とてもかっこ良くてお気に入りだったのだが、小さくなってしまった。いたしかたなし。

デザインをしてくれた友人の長友浩之くんが、第11回 “H”ADC 広島アートディレクターズクラブでグランプリを受賞した。勝手ながら、嬉しいしとても誇らしい気持ちに満たされている。長友くんのデザインって、優しくて温かくて丸いのよね。そこが好き。あ、その点がみなみらんぼうさんの歌とちょっと似ているかもな。

長友くん、あらためまして、受賞おめでとうございます!