それでいい

あれは四十数年前にもなるのか。

少年テッペーが、初めて作った戦車(正確には対戦車自走砲)のプラモデル、それがこのタミヤの1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ 『ドイツ マーダーII 』だった。

その側面に描かれたヒゲオヤジのマスコットに強く惹かれたのを覚えている。
しかし、作り始めたらそのあまりの難しさに早々にギブアップ。
さっさと放り出してしまったんだった。

それが巡りに巡って、再び作ることになるから人生は面白い。
しかも、当時もの。
すなわち、三、四十年前に販売されたキットが、何処かの誰かの家の押入れにでも眠っていたのだろう。
若干の芳香剤的香りをまとって、リサイクルショップで私の前に忽然と現れたのだから震えが止まらないのである。

五十路に突入して三年にもなるナイスミドルな私
なのだから、こんなのチチンプイプイだぜと思いきや、なかなか苦戦した。
こりゃ、あのとき弱冠十歳であった少年テッペーに作れっこないわけだ。
ま、それなりに頑張ったよな。
褒めてつかわす。

そして、どうにかこうにか完成し、その仕上がりには全く満足はしていないが、それなりのリベンジは果たせたんじゃないかと自負してはいる。

プラモデルを通して、少年テッペーに再会することが多々ある。
あの時、あの頃の空気感、匂い、手触りまでが蘇る瞬間はクセになるほど楽しい。
自分が歩んだ道が見えてくるようで、満たされる何かがある。
でも、その何かが何なのかはわからない。
なんじゃそりゃ。

ここに来て、周囲の空気が濃密になり始めているのを感じる。
これは何かの暗示か。
もしくは何かしらの啓示なのだろうか。 
悪くないものなのは確かなのだが。

結局、何もわからないまま日々は過ぎて行く。
それにちょっと焦ったり、不安タスティックになったりもするが、それもまた良し。

それでいいんだよ!

と、今日もナイスな音楽が私の肩を叩いてくれる。

ともあれ、春よ。
もうちょっと踏みとどまっておくれ。
まだまだ初夏は遠くて良いからさ。

股旅。

新しい夜明け

本日、まことに有難いことに私の誕生日でございまして。
どうにか無事にさりげなく五十三歳になれました。
ありがとうございます。

そんな目出度い日和なので、今日の店内BGMは、ひねもすKhruangbinをナイスチョイス。

こんな音楽が似合う店にしたい。
そんな店に相応しい床屋のオッサンになりたい。

そんな願いがこもった選曲でございました。
リリースされたばかりのKhruangbinの新譜も言わずもがな最&高。
こういう音楽が生まれる時代に感謝です。

五十三歳の床屋のおっさん。
今年で二十周年を迎えるややクセの強い我が店 DOODLIN’ BARBER SHOP。
だからちょっと、思い切って仕事用のシューズを新調してみました。

この十数年愛用していた “adidas / CAMPUS” から、ずっと憧れていた“adidas / SUPERSTAR 82” へ華麗なるチェンジ。
この SUPERSTAR 。
三十年ほど前「やっぱこれだぜ!」と一度購入したことがあるのですが、なんだか違う。
オレが「無茶苦茶カッコいいぜ!」と思ったのと色落ち?やれ感?空気感?

いろいろと違っててダサかったのだ。
なので、後輩に「それダサいっすね!」と笑われたときも「だよね!」と素直に思ってしまったほど、明らかに明白にダサかったのである。

何故そうなのかわからないまま、憧れの思いを抱いたまま、数十年が経ち、ずっと避け続けていた “adidas / SUPERSTAR” を履くことを決意したのです。
これは、私の中で途轍もなく震えるほどの大事件なのである。 

幾人の方々からアドバイスをいただき、どうやらこの “SUPERSTAR 82” がそれに近いんじゃないかと確信し注文したわけです。
それが、私の五十三歳の誕生日当日に届くんだから、これはもうドラマチックにならざるを得ないわけです。
こんな気持ちわかるでしょう。

本も読めてます。
数日前に読み終えた『遠い日の戦争』(吉村昭著)に心突き動かされ、昨日から読み始めた『ルーアンの丘』(遠藤周作著)にも、ズキズキワクワクさせられまくっております。

兎にも角にも、まわりに溢れる愛に感謝です。

DOODLIN’ BARBER SHOP 店主 高崎哲平 拝

グッドバイからはじめよう

毎年、この時季になると我が家周辺をツバメが飛び交うのです。
軒下まで入ってくるし、一度は店内に入って来たこともある。

専門家ではない無知男なりに推測するに、これはもしや巣を作る場所を探しているのでは?どう?

で、まだ巣が作られたことはないので、彼らのお眼鏡にかなわなかったのでは?どう?

と考えているのです。
今、この駄文を書いてる最中も、ツピッピさえずりながら、軒下を偵察していやがって、なんだかとても可愛いのである。

ほら、軒下に巣を作ったツバメは雷や火事を防ぐ生き物だなんて縁起が良いだなんて言われているじゃないですか。
我が家には既にアオダイショウもいるわけで、ツバメが揃えば、それはもうハッピーGOラッキーじゃないかと。

だなんて、欲深いこと考えてるから華麗にスルーされちゃうんでしょうね。
先程も写真を撮ろうとヒッソリ待ち構えていたのですが、そうした途端ピタリと来なくなり、店内に入るや否やツピツピ再来するのだから笑えます。

話は変わりますが、この日記。
うちの小6息子も読んでくれているんですよ。
今の小学生は一人一人にタブレットが配られているじゃないですか。
それを使ってアクセスしてるんです。
凄くないですか?

で「プラモデルの話を書いてよ!」とせがまれるのですが、床屋のオッサンがプラモデルのことばかり書いてたら「それってどうなのよ?」ってなるわけで、でも小学生にはそんなことわからないわけですよ。

ブログを書き始めて二十数年。
まさか自分の息子に読まれる日が来るとはね。
そんなの充分にあり得ることなのに、全く考えたことなかったです。
なんだかスペクタクルだな〜

息子よ。
今回もプラモデルの話はなしだ。
すまん。
写真は、いつかもしかしたらツバメが営巣するかもしれない我が家のポーチだ。
作ったら、掃除がちょっと大変かもだけど嬉しいね。

股旅。

読書のすゝめ

ここ最近、二冊連続で心の奥底まで激情が染み渡るような本が読めていたので、すわこのまま読書モードに突入か!
と思いきや、三冊目でウンジャラゲ。

今頑張って四十ページほど読んでいるのだが、今にもギブアップしそうなのである。
まず、文体のリズムが合わない。
そして、世界観が好みじゃない。
さらに、登場人物全てがいけすかないっつー三重苦。

読み始めてすぐに気づいてはいた。
この本は私に何ももたらしてはくれないということを。
下手したら、たった数行読んだだけでわかってしまうときすらある。
あ、このリズム心地良くないって。
こうなるともう、内容とか展開も関係ない。
リズムが合わないってだけで読めなくなるのだ。

人の好みって面白い。
私がウンジャラゲと思ってしまう作品が、どこかの誰かは大好きだったりする。
私が到底耳を傾けなさそうな音楽が、どこかの誰かの救いになっている。
私が観ようとすら思わない映画が、どこかの誰かにとっては生涯忘れられない名作だったりするのだ。

なんでかな。
なんでだろ。

何がどう違うのだろうか。
何で心動かされる物事は人それぞれ違うのだろうか。

なんて、思春期の中学生みたいなことをぼんやり思案するのが好きだ。

ああだこうだ言ったが、この本はちゃんと読破するぜ。
今、そう決めた。

で、次の読む本も決めている。
『遠い日の戦争』(吉村昭 著)だ。
吉村先生の作品にハズレなし。
私はそう信じている。

気分と思い込み

おはようございます。

この二週間ほど、レコードが聴けませんでした。
耳障りなノイズが目立ち始めたので、あ〜これはとうとうレコード針が駄目になってしまったのだなと悟りましてね。

何が“とうとう” だったかと言うと、私が使用するカートリッジM44G専用の針を製造しているメーカー“SHURE”がフォノ製品の生産を終了して6年が経ちまして。
私がストックしていた針も、とうとうこれにて終了だったっつーわけです。

じゃあ、どうするべ……と思案してたのが、この二週間。
店内BGMはApple Music で流していたのですが、やはりどうにも温もりが足りない。
何より私の気持ちが昂ぶらなかったわけです。

そんな最中に救世主が出現。
なんとM44G用の針を作っているメーカー?店?を発見しましてね。

“本物には少々劣るが、それなりに良い音出すぜ!”

と言っているし、何より安い。
(SHURE針の国内在庫分の価格が信じられないくらい上がっているのです)
私はほとんど迷わずポチッとな。
そして昨日、その針が届いたのでした。

早速接続するも、カートリッジそのものが古いからか、なかなかちゃんと音が出ず冷や汗かいて膝から崩れ落ち諦めかけてたその瞬間 ♪ジャカジャーン♬ と期待を遥かに超えた音が出てくれましてね。
店内の空気が一変するのをビリビリ実感したわけです。

やはりレコードは違う。
それはただの気分だったり、ただの思い込みなのかも知れないけれど、順調に行けば来月53歳になる床屋のおやじさんは、そういう思い込みの尊さをよ〜く知っているので、全てがオーライなわけです。
気分と思い込みは無敵なのです。

私の中で同じような話になるのですが、ここ最近夢中で読み進めていた『邂逅の森』(熊谷達也 著) をとうとう読了してしまいました。
漫画以外で読書中に涙が出たのはホント久しぶりです。
読み終えるのが勿体無くて、終盤をちびちびゆっくり読んだのも久しぶり。

“やはり読書も最高だぜ!“

と痛感させて頂きました。
どうもごっつぁんです。

さてと!

次は何を読むかなぁ
どのレコードを聴こうかなぁ
どのプラモデルを作ろうかなぁ

こんなことを思案している時ほど幸福なこともあまりないよな〜としみじみ。
こんなふうにワクワク出来ることを、もう二、三個増やしていきたいものですね。
その辺は欲張りたいわけです。
それは私の“自由” ですから。

股旅。